母が言うには、おまえは小さい頃から気散児で、めったなことで駄々を捏ねなかったが、たった一度どうしても買って欲しいと、店の前で寝っ転がってねだったのが「五色豆」らしいが、その記憶は本人にはまったくない。五色豆というのは京都のお菓子で、夷川通りの豆政のが有名である。えんどう豆に砂糖でコーティングして色をつけただけの、和菓子に興味のない私としては、さしておいしくもないお菓子だが、子どもの頃の私からすると、その色合いがたいへんうまそうに見えたのだろう。五色豆の「五色」というのは青・赤・白・黒・黄色の五色で、陰陽五行説に則った色彩であることは言うまでもない。京都という地は三方を山で囲まれ、南が開けていて川(水)があるという風水でいうととても恵まれた自然の地形であるらしいが、そんなことを言うのは科学的ではないと自省する。万城目学が京都を舞台にして書いた「鴨川ホルモー」という珍無類の小説を、京都に来られる前に読んでみるのもいい鴨。
いまは亡き親友のOと一緒に、はじめて京都に行ったのは小学校6年の夏休みだ。京阪電車で行けばよいものを、小学生の行動である、なぜかJR京都駅に到着。目指すは三十三間堂、夏の暑い盛り、昼めしどき、目の前に現れたのは屋台のうどん屋。昭和47年、京都にもまだ屋台のうどん屋があったのですねぇ。お品書きの中、とくに目を引く「あんかけうどん」の文字。自分はさっさときつねうどんを頼んでおきながら、Oは私には「あんかけうどん」をしきりに勧める。彼が「あんかけうどん」の正体を知っていたのか知らなかったのかは、いまとなっては定かではないが、私はうどんに餡子がのったものを想像していたことは確か。はじめてウインナーコーヒーを注文したときも勇気がいったが、ここでも怖いもの見たさで「あんかけうどん」を注文。ちなみに、いまはほとんど餡子を受け付けない(嫌いな)のでどんなことがあっても注文することはないが、子どもの頃はまだ食べることができたのだ。さて、出てきたのは予想に反して片栗粉でとろみをつけた、生姜の味がよく利いた絶品。あんかけうどんというと冬の食べ物みたいに思うが、じつは夏の暑い盛りにもうまい。祇園四条・松葉本店(南座の隣)の「にしんそば」もいいが、どこか気の利いた店で夏のあんかけうどんはいかがですか。