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自己肯定感はバッチリ、なんか陽気で楽しそう

三重の岡村です。

私はこの4月、鈴鹿のI高等学校定時制に転勤となりました。I高校定時制は、鈴鹿・亀山地区の2つの定時制を統廃合してできた新設課程です。年次進行で進んでいきますので、まだ1年生60人しか在籍していません。先生も常勤教員(再任用2人も含む)6人、養護教員1人、教頭1人の8人だけ。あとは非常勤の先生です。カリキュラムや内規など大枠は作ってあるものの、何をするにも前例はなし。ゼロからルールを作っていかなければならない状況です。

さて、そんな我が定時制ですが、何よりも外国人生徒が多いことが特徴です。前任校の三部制定時制でも外国人生徒はいましたが、それよりずっと多い。60人のうち30人が外国人生徒です。三重県の鈴鹿市の労働人口の1割は外国人だそうで、その子どもたちが通う拠点校として位置づけられているからです。ほとんど南米系の日系人ですが、南米は混血が進んでいるため、白人っぽい顔立ちや肌の黒い子まで様々。彼らと接していると、日本人の顔立ちの何と平たいことでしょう。生徒を見る感覚もズレていきます。 

この4か月彼らと接してきて気づいたことを幾つか書きます。私は社会科の教員で、今現代社会を教えていますが、私の現代社会の授業の生徒はすべて外国人です。日本人生徒は負担も少ないので、非常勤の先生にお願いしており、私たち常勤教員が外国人生徒をもつように時間割を組んであるからです。さて、この外国人生徒相手の現代社会の授業がほんとうに大変です。教員経験の中で一番のピンチかもしれません。

一番のハードルはやはり「言葉」の問題です。日本に来てまだ1年未満の生徒もおり、ひらがな・カタカナも苦労しています。教材プリントには、ふりがなを必ず付けるのですが、それでもおそらく理解不能。「日本語入門」の授業を受けている生徒が、私の現代社会の授業を難しいと思うのは当然だと思います。日本に10年以上いる生徒は、日常会話は問題ないですが、いわゆる「学習言語」にはつまづくようです。日本の社会科の言葉って、日常言語から離れていますよね。漢語が多いし、日常的にイメージしにくい。日本人生徒ならこれまでのニュースや新聞の視聴経験から漠然としたイメージを持っているので、それをあてにして授業で概念をクリアにしていけばいいのですが、外国人生徒にはその基礎的な経験があてにできないことろがある。だから社会科の授業はハードルが高いのです。むしろ数学の方が、生徒たちは喜んでやっていますし、テストの点数も高い。ブラジルでも数学は教えてもらっているので、来日間もない生徒でも数学の授業には適用しています。数学はやはり普遍的な科目ですね。底辺校にありがちな、数学は敬遠、社会は歓迎という常識はここではひっくり返っています。とにかく、外国人に「学習言語」をどうやって教えるかというのは、かなり大きな課題です(現場でやってみてください)。ちなみに私の授業には、ブラジル人の通訳の方が入ってくれているので、私の説明をポルトガル語にして生徒に伝えてくれます。彼らがいなければ授業は成立しません。

二つ目はこれまでの「学習経験」の問題です。日本社会に適応するには、まず日本語習得が必須ですが、生徒たちは私に言うのです。「これまで日本語ばかり教えられてきた。社会の知識は教えられてこなかった」、と。小中学校ではおそらく、日本人生徒とは別にして、日本語の取り出し授業をしてきたのでしょう。そこでは日本語習得にフォーカスして授業が組まれていて、社会の知識などは後回しになってきたと推測できます。でも、理解を支える基礎知識(基礎学力)が欠けていると、単純にポルトガル語に翻訳しただけではやはり理解不能に陥るのです。通訳の方もいろいろな説明を試みられているようですが、苦労しているようです。これは小中高と全体を見通した、教育計画の視点が必要なのではないかな。

三つ目は、「授業規律」の問題です。彼らは、よくガムを噛んでいるのです。授業中でも噛んでいます。もちろん私たちは授業中の飲食は禁止されていると注意します。「ガムは、ダメ!ダメ~!」。その場では指導に従いますが、次の授業では元に戻っています。彼らに悪気はないのです。ガムをくちゃくちゃ噛みながら、授業を一生懸命に聞こうとする生徒もいます。真剣なまなざしでこちらの説明を聞いているのですが、口は動いているのです。最近、ガムを注意することにもめげてきました。ガムは心の乱れの表れではありません。文化の問題です(本当か?)。

もう一つ。授業出席が少ない。これはクラスによって違うのですが、13人の外国人を教えている講座で、一人も出席がなかった授業が4回。4か月で4回です。教室に誰も来ないので、自転車置き場や校門まで生徒を探しに行ったりしました。「みんな、どこ行ったんだ~」。普段も半数以下の出席率にとどまっています。その講座は、定時制6限目(20:25~21:10)に入っているので、そこはキャンセルして帰っちゃうのです。授業出てもらわないと、授業規律も基礎学力も手が打てません。頼むから、授業に出てほしい・・・。 

そんな外国人生徒たちですが、みんな自己肯定感はバッチリです。なんか陽気で楽しそう。私語を母語で話すので、私には理解不能な会話もありますが、授業が成立しているときには明るいトーンですることができます。大変なのですが、病んではいません。それが救いです。

全国大会の問題別分科会では、「日本語を母語としない生徒たち」の問題が議論されます。外国人生徒の問題・課題がみなさんとも共有できればと思います。ぜひご参加ください。