先日、近所にある郷土博物館で行われていた、放浪の画家・山下清展に行ってき
ました。
彼の晩年の作・「東海道五十三次」には私の住む藤枝市も描かれていてとても身
近に感じました。
ただ、私は、どちらかというと絵より、その隣に掲示してある絵にまつわる彼の
「コメント」のほうに引きつけられました。
ご承知のように山下清は、知的障がいを持っていました。しかし、彼のあらわ
すたどたどしいコメントは絵と遜色ないくらい実に生き生きとしていま す。恩
師につれられヨーロッパ旅行をした折、ゴッホの墓をスケッチしたときのコメン
ト。「せんせいに、ゴッホのおはかをかけといわれたけど、ぼく はとなりのお
はかのほうがずっとよかったんだな。ほんとうはそっちをかきかたった」。たし
か兵隊かなんかを描いた絵のコメント。「えらいひととい うのはいばっている
ひとなんだな。くろうするのはいちばんしたのへいたいさんなんだな。」
山下清が戦時中、放浪の旅に出たのは一重に徴兵から逃れるためであったとい
います。そしてそのことをこれっぽちも後ろめたく思っていなかったそ うで
す。「殺されるのも殺すのもこわいこと」。そういうごく自然なおもいからとっ
た行動であったと。「お国のために命を捧げることが尊いこと」で あり、それ
を拒否すると人として否定されるような時代にあってです。
山下清の人間として生きる「学力」は、放浪するなかで、美しい自然を楽しみ
ながら、さまざまな人と出会い、心をかよわせあうことによってさらに 育まれ
ていったのかもしれません。(絹村俊明)