問題別分科会2 「いじめ・トラブル」を問い合うHR・授業 対話、ケアと「心の傷」をめぐって―渡部実践を元に

渡部のクラスは男子6名となった、定時制高校4年生である。修学旅行前、理科室のドアを開けたままにした、発達課題を持つHに対し、気の短いIが高圧的な態度だったことがわかる。渡部は、Iには、自分と合わない者を排除しようとする傾向が若干あるので、注意を促さなければと思いながら、Iが所属するバドミントン部の顧問に話をした。そして事情がわかる。体育の授業の時もHが毎回ドアを開けっ放しで自分から閉めることがない。Iはバドミントン部で、日頃から風の影響を受ける扉には過敏だとわかる。それぞれの感じ方の違いからトラブルが起きている。渡部は担当する国語表現の授業で、自分の見聞きしたときの感情やそのときの他者の感情を書きださせるシートを作成した。そして渡部が読み上げながら全体に確認していく。生徒たちの話し合いが始まる。Iを初め、生徒たちはHが心配でHのバイトの話しをする。 I「Hさ、バイトやめた時上司に文句言ったんでしょ」「ご飯一緒に食べるような友だちっている?」「Hもさ、何か自分から動いて喜ばせてやりたいと思える友だちつくれよ~」。渡部はHの1年次の作文に書いた、いじめられ体験を寄り添いながら語る。そしてH「クラスの人たちとこういう風に話し合えたの初めてで……なんか、涙が出てきちゃいます」(と涙を流す)。Hはその後の修学旅行で成長を遂げる。
渡部は2人を呼んで個別に注意するということはしないで、クラスみんなの話し合いの課題と位置づけた。定時制で人数が少ないとは言え、渡部のクラスはなぜこうした話し合いができるのだろう。また、トラブルの際に互いの見え方の違いをHRで共有し合うことには、どのような意味があるのだろうか。そして渡部が生徒と相互応答することで立ち上がってくる、生徒の生活世界は渡部と生徒たちに何をもたらすのだろう。彼らの活動(行為、言葉)と認知認識、関係性の変容とその深化について深めたい。一方で、私は大学で学生たちの「いじめ」や虐待被害の酷さとその「心の傷」に長く心を痛めてきた。そして、「いじめ・トラブル」がなくならないにしても、それを「予防」できる学びの活動が必要ではないかと考えた。そこで、認知行動療法を用いて、「いじめ・トラブル」を問い合う授業を非常勤の高校で約6時間実施した。そのなかで彼らは自らの認知のゆがみを考え、互いの認知の違いを問い合い、学び合う。そして最後に、科学的な認知療法の対話スキルを越える、寄り添う応答を発信していくようになる。
渡部のHRの話し合いは、私の授業の問い合いと異なり、そこには活動と関係性をベースにしたリアルな生活指導が行われている。そこから見えるものを確認したい。最後に子どもたちに今増加する、渡部実践のいじめ被害のHと基調のSが抱える「心の傷」(心的外傷)についても、教師の向き合い方を含め提起をしたい。                

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