日: 2025年7月13日

一般分科会4 [ HR ] 新しい景色が見えた文化祭

この実践報告「新しい景色が見えた文化祭」は、特別支援学校における文化祭という行事を通じて、教員と生徒、そして学年団全体の「本気」と「信頼」が紡ぎ出した二年間の記録です。その魅力は、教育の現場で起きているリアルな葛藤と、生徒・教員・卒業生・保護者など関わるすべての人との創造のプロセスにあります。
最初の年、「特に大変な学年」と評される生徒たちを前に、学校方針の「演劇から学習発表へ」という転換に直面します。しかし河上さんはそこで妥協せず、「本気は伝染する」という信念をもとに、学年団教員との対話や不安の自己開示、信頼関係の構築から実践をスタートしました。そして、教員だけでなく生徒一人ひとりとも丁寧に向き合い、全員が対等に意見を出し合いながら劇が形づくられていきます。時には学年主任の考えに「NO」と伝える場面や、他の教員の提案に対し自身の不甲斐なさから思わず涙する場面もありましたが、こうした葛藤こそが「本気」の証であり、それが教員や生徒へと広がっていったのです。そうした過程を経て、「青春」というテーマが命を持って輝いていきました。
2年目はさらに深まり、「自己対話」や「人生の物語」という繊細なテーマに挑戦します。より高度なメッセージと構成を目指す中で、脚本の試行錯誤や生徒への細やかな配慮など、教育現場の「難しさ」と「可能性」が色濃く描かれています。
特に印象的なのが、冬美さんや修人さんの姿です。心の葛藤と向き合いながらも、教員や仲間との信頼の中で舞台に立ち、成長していく様子は、まさに教育の核心を示しています。「修人が“修太モード”で面接に挑んだ話」や、「生徒たちが自主的に小演劇をつくったエピソード」など、文化祭が彼らの人生に与えた影響が深く伝わってきます。
この実践の本質は、演劇という手段を通じて、生徒だけでなく教員自身も再構築されていく点にあります。信頼し、委ね、自分の言葉で語り、他者の声に耳を傾ける。その先に「新しい景色」があることを、私たちに実感させてくれる報告です。
この分科会では、河上さんの実践報告を受けて、「本気」や「信頼」をキーワードに、参加者のみなさんが自分の言葉で語り、他者の声を聴き合う場にしたいと考えています。河上さんが生徒に語った、「想いは最初からしっかりとした形で心の中にあるのではない。自分で言葉にすることではじめて具体的になり、行動が変わっていくのだ」という言葉のように、この会でもその場その時の想いを共有し、語り合う中で、参加者同士の化学反応を起こしていければ幸いです。