カテゴリー: 問題別分科会

問題別分科会4「高校生が一般質問で地域を動かした―模擬議会の取り組み―」の運営担当の佐藤岬平(大阪)です。

先日、分科会の打ち合わせをおこないました。そのなかで望月さんがこの実践を「ぜひ本にしたい」と言っておりましたが、その言葉通り「すごい」実践です。

高校生が模擬議会での一般質問に取り組み、この取り組みを通じて、生徒たちは学び、地域に影響を与えます。政治と距離を置く実践が多いなか、リアルな政治と生徒をつなげる実践です。実践者の酒田さんは、生徒たちが地方政治に将来関わってくれたらとの思いで取り組んでいきます。そして、そこにはさまざまな「しかけ」があり、

とりわけ注目したいのが、「ジェンダー」をテーマにした班です。「生徒は何を学んだのか?」、そのポイントはどの場面だったのか(「それはなぜか?」)、地域にどのような影響を及ぼしたのか?自分事として生徒たちが学んだこの実践を、参加者の皆様と深めていけたらと思います。

<大会参加申込フォームのリンク>

交流会・懇親会申し込みフォーム

 

大会参加のお誘い 久田晴生(愛知) 

問題別分科会2「対話と共同によるナラティブ(語り・物語)の生成とエンパワーメント」の運営担当(報告者)の藤本です。先日、分科会の打ち合わせを行いました。司会の久田さんと話し合う中で、分科会で深めたことなどが議論されました。久田さんの日ごろの問題意識とも共通することが分かりました。

久田さんからコメントをもらいましたので、以下にご紹介します。この分科会に限らずぜひ全国大会にご参加ください!

なお渡部基調はこれまでオンラインでしか議論できていません。是非対面で渡部基調を議論したいです。以下久田さんからの「大会参加のお誘い」です。

大会参加のお誘い 久田晴生(愛知)

 問題別分科会2 「対話と共同によるナラティブ(語り・物語)の生成とエンパワーメント

報告者:藤本幹人、見波由美子

皆さんは、職場の慣行とか学校の規則といったもの(ドミナント・ストーリー「支配的な物語」)に息苦しさや疑問を感じたことはないだろうか。あるいは、息苦しさや疑問をどこかに感じつつも、「支配的な物語」に縛られ無難な道を選んでしまった自分に気づいたことはないだろうか。

2020年・21年の基調発題(発題者:渡部翔子)は、Mという性自認に悩む一人の生徒に入学から卒業まで伴走した渡部(および学年団と学校)の実践をもとにした発題である。本分科会の報告者の一人である藤本は「ナラティブ(語り・物語)」の側面からこの実践の分析を試みた。藤本が提起していることを筆者(久田)がごく単純にまとめると次の通りである。

「Mが卒業式でスカートをはけたのはなぜか。学校がそれを認めたのはなぜか。ナラティブの観点からそれをあきらかにしたい。」

  ここで言う物語とは「現在の何かを結末として、その結末を巡って過去の出来事・経験・感情といったものが組織化されている文章」を指す。つまり、この分科会では「この3年間に、M、渡部、教員集団、生徒集団にどんなことが起き、そのときかれらはどう考えどう行動したのか。そして、それらは卒業式でMがスカートをはくという結末にどう結びついたのか。」を明らかにしたいということである。そしてその議論を通して、新たな学校像・教育像(オールタナティヴ・ストーリー)を提示したい。

渡部は、生徒の人権をまもるため、学校の慣行とか規則に異議を唱えるが、時に「支配的な物語」に縛られている自分を発見する。そのような揺れを伴いながら、できることを少しずつ広げていった。今世紀に入って特に、高生研は一人一人が抱える弱さとか集団内の少数者に光を当て、そこから、現在の学校・教育の抱える問題に切り込み、新たな学校像・教育像を提示してきた。それは、理論だけでなく、渡部が経験したような揺れを伴うリアルな実践を通して、である。

本分科会は、とりわけ性自認を巡る問題から新たな学校像・教育像を追求する。そして、(全体会はもちろんのこと)他分科会でも交流会でも、題材は違えど、同様の追求が行われるであろう。多くの人たちと語り合いたい。大会参加を切に願う。
<大会参加申込フォームのリンク>

交流会・懇親会申し込みフォーム

 

大会特集②「問題別分科会編~提起者からの報告概要~」問題別分科会4 「高校生が一般質問で地域を動かした― 模擬議会の取り組み ―」

昨年(2022年)の12月16日に、六戸町議会で、六戸高校の3年生による模擬議会が行われました。この模擬議会は12名の生徒が模擬議員として一般質問を行い、町長執行部側がそれに答弁するというものでした。

この日のために、5月から、町議員の指導を受けながら、「現代社会」の時間やLHRの時間などを使って準備を進めてきました。模擬議員になった生徒たちは、本番では2回のリハーサルのおかげで落ち着いて質問しました。心配していた再質問の場面では、町長の答弁に対して議員役の生徒が鋭い再質問を行ない、それに対し町役場の執行部が答弁できず休憩になる場面なども見られました。いっぽうで、うまく再質問できず、町長が助け舟を出す場面も見られました。また、議長役を担当したSさんは落ち着いて堂々と進行し、とても立派でした。

質問は6つの大テーマについてそれぞれ2人が質問しました。ジェンダー平等について質問した生徒は「この場にいる人を見ると分かるとおり、議員さんも課長さんも全員男性です。そして男女共同参画の担当者の方も男性でした。私は少なくとも担当者を女性にするべきだと思います。問題意識を持った女性自身が、男女共同参画の担当者になることによって、今の六戸町の現状や改善しなければいけないところが見えてくると思います。」という再質問には議場内からどよめきと笑いが起こりました。これに対し、町長は「私どもは、あえて女性を省いて男性のほうにしたとか、そういうわけではございません。逆にお願いしたくても断られた」などと逃げの答弁を行いました。結局、ジェンダー平等については、町の男女参画推進計画に目標数値を入れる方向で検討する、環境問題についてはゼロカーボンシティ宣言を実施する、公園のキャンプ場のトイレの洋式化などの公園整備を行うことなど、前向きな回答を引き出すことができました。

 

こうして模擬議会は無事終了しました。議員議会事務局町の執行部は、生徒の質問は簡単なもので、時間が大幅に余ると思っていたようですが、実際には、時間がないので発言をまとめるように議長役が促す場面が何度かあったり、執行部側が答弁に窮する場面があったりするなど、予想以上に内容のあるものでした。また、ジェンダー、農業の六次産業化、外国人との共生などのテーマの質問は町議会で前例がなかったらしく、驚かれました。そのことは、今回の担当である副議長が模擬議会の終わりの挨拶の中で「(六戸高校との模擬議会を)もっと早くやるべきでした」と悔やんだことからも伺えました。

模擬議会はコロナ感染予防のため一般傍聴者は入れませんでしたが、役場のロビーで映像を見ることができました。学校で子育ての話をしてくれたTさんがわざわざ模擬議会の様子を見に来てくれました。自分が学校で生徒に話をしたことを、生徒が政策にまとめ質問してくれたことに感激していました。この模擬議会の様子は、後日地元の新聞3紙が比較的大きな記事を掲載してくれました。さらに、議論内容は、正式な会議録として町の議会のHPに掲載されました。

生徒たちは議会側から絶賛されるような一般質問を考え、実際に質問することができました。生徒たちは、模擬議会を通してリアルな政治の姿を学んだだけでなく、自分たちの質問が実際に政治を動かすことができたという実感を得ることができました。

この実践は、文部科学省の『令和4年度主権者教育(政治的教養の教育)実施状況調査報告書』の中で、政治の働きを身近に感じさせるための「特徴的な取組の工夫等」の事例として紹介されました。

 

※実際の町長・町の執行部・課長・議会・副議長・町議員・議会事務局をゴシック体にしてあります。

<高生研会員通信No.189より>

<大会参加申込フォームのリンク>

交流会・懇親会申し込みフォーム

 

大会特集②「問題別分科会編~提起者からの報告概要~」問題別分科会3 「地域高生研の『外』と『内』をつなぐ」

提案趣旨

熊本高生研(サークルおよび会員)は、「高校生を市民に!」を目標に教育実践を行い、例会で報告しあい、意見を交換し、そして感想などを通信に掲載し、学びあっている。しかし高校の教員の取り組みや学びだけで、「高校生を市民に」することは難しい。だから熊本高生研では、“市民”と手を繋ぐことを選択した。会員とつながりのある高校生も大学生も、親たちや議員も毎月の例会に参加し、時にはレポート報告をしてもらい、共に学びあっている。この共同の学び合いが「シチズンシップ育成への近道」だという認識が、私たちの中で深まってきた。

 

熊本高生研の活動スタイル

熊本高生研の例会や大会には、通信制に通う高校生やその保護者が参加し、時にはレポーターとして不登校体験を話してくれる。不登校の「当事者」の本音を聴ける貴重な機会である。このような積み重ねがあったことで、問題別分科会「不登校の子どもたちとその家族」を2021年全国大会で実現できた。またその後、スピンオフ原稿も3本、保護者が全国通信用に寄稿してくれた。互いの意見を聴きあい「違う意見っておもしろい」と高校生・大学生・保護者・教員が実感し、互いにエンパワーメントされている。

「18歳を市民に」と掲げる高生研「会員」としてどのような「市民」的活動の展開が求められているのか。主権者教育は、私たち「高生研会員」から「高校生」へのバトンパスであり、同じ「市民」として地域にある社会的課題と社会的要求の分析を行い、共に課題の解決方法を考え、取り組むことだと考える。

高生研では、1~5の研究指標にもとづき研究活動を進めている。この研究指標は、一年以上にわたる議論をもとに、つくられたが、今後、研究の進展と教育を取り巻く情勢の変化により改変されることもあると但し書きがある。

今回の分科会報告には、最近の例会のレポーター4名が登場。熊本高生研がどのような学びあいをしているのかを追体験してもらう。そして「高生研研究指標」に基づく高生研活動とは何か、分科会参加者と意見交換を行い、求められている高生研活動を明らかにしたい。(レポートは、まるっと「熊本編」に掲載)

 

「高生研研究指標」(1997 8.1 改正)

1 私たちは、憲法と教育基本法の平和と民主主義の理念を今日的に発展させる

立場から、人権の発展を目指すグローバルな動向に学び、すべての子ども・青年

の個人的権利と集団的権利の実現につとめ、民主的な高校教育を追求する。

2 高校生が学校をはじめとした生活の中で、多様で豊かな社会関係をとり結び、

主体的・創造的な学びを獲得し、他者と共存・共生するわざや見通しを身につけ

よう指導する。

3 高校生が自治的な諸活動をつくり出し、青年・父母・市民と協同・連帯して

社会の発展に参加する中で、社会の民主的形成者としての品性と自治的能力を身

につけるよう指導することを原則とする。

4 個の成長と集団の発展の関係に着目した「集団づくり」の実践的伝統を引き

継ぎ、国家および市場による教育支配に対抗しうる文化・社会・学校を創造する

新たな実践の筋道を探る。

5 広く子ども・青年、父母、地域住民、近接領域の専門家と交流・提携しつつ、

教育慣行と教育政策・制度の民主的転換に取り組み、十代のこども・青年の自立

に関わるすべての教育機関の総合的発展に寄与する。

<高生研会員通信No.189より>

<大会参加申込フォームのリンク>

交流会・懇親会申し込みフォーム

大会特集②「問題別分科会編~提起者からの報告概要~」問題別分科会2 「対話と共同によるナラティヴ(語り・物語)の生成とエンパワーメント」

2020年及び21年の渡部基調をもとに、「ケアと対話」「ナラティヴ(語り・物語)」「共同(行動)」「エンパワーメント」とは何か、それらがどのように関連し合っているのか、実践においてなぜ重要なのかを共に考えていきたい。当時か関わっていた渡部以外の教師にも参加してもらい、学校で何が起こっていたのかをふまえながら、下の二つのさしあたりの〈問い〉と〈読み〉を参考にして、参加者で多角的に検討したい。

〈問い〉中学時代にカミングアウトがうまくいかず、高校入学直前まで自分の性自認を親にもだまっていたMだが、なぜ、高校生活の中で友だちに次々とカミングアウトし、最後は卒業式でスカートをはくという自己表現の決断ができたのだろうか?

〈読み〉頭髪規定や制服に不安感をおぼえたMは入学前の個別相談で渡部に自分の性自認を打ち明ける。渡部は、Mの苦しい思いを汲み、励まし、学年通信や「性の多様性」の講演会を設定するなどで応答していく。Mは担任のZ先生の注視に助けられて同じ性的マイノリティであるRと出会いカミングアウトする。担任、渡部、Rと話す中で、思いを聴き取られ、Mは修学旅行にいける。前後してMは信頼できる友だちに次々とカミングアウトし友だちもそれを受け止める。渡部は生徒を主人公とした行事をつくりだしていき、Mはその共同の行動のなかで活躍する。Mはこのような対話と共同行動によって、他者と言語的・非言語的コミュニケーションを重ねる中で自分らしく生きる物語を紡ぎ出し、その物語にエンパワーされることによってスカートで卒業式に出る決断をしたのではないか。

 

〈問い〉一方で、渡部の学校は「思うとおりに言うこときかす」指導が幅を利かせていた。そのような学校でなぜMのスカートが受け入れられたのか?

 

〈読み〉渡部は、毎年の学年方針で「思いを汲むような対話が必要」だと提起する。毎週の学年会議ではレジメにいれて生徒の成長を語ってもらう。Mが安心してトイレに行けるよう共用トイレの設置を職員会議で訴える。修学旅行後、今まで一度も学校では生理現象さえ起きなかったMが、授業中ではあるが、トイレに行けるようになる。そのことを学年外の授業担当者が職員室で報告してくれ、その場にいた教員で喜び合った。総括の職員会議でもそのことを取り上げた。他の担任も職員会議の場でそれぞれのクラスの生徒の成長を語る。他の学年団ではほとんど見られないことだ。

変容する担任団であったが、それでもMからスカートで卒業式に出たいと申し出があったときには揺れる。その揺れに渡部はエンパワーされ、担任団の不安や懸念に寄り添うように応答していく。ここまで我慢してきたなら最後まで男性のフリをしてほしいというある担任に対してZ先生はMは「自分を偽らずに卒業したい」と言っていると応答する。

このようにして担任団を中心としてMの物語が対話と共同によって共有され、そのMの物語が教師たちを動かした(エンパワーした)と言えないだろうか。そしてこの物語は渡部の異動後の今も学校に記憶され生きているのではないか。

<高生研会員通信No.189より>

<大会参加申込フォームのリンク>

交流会・懇親会申し込みフォーム